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縣居通信


【縣居通信1月】
江戸時代のかなづかいの研究書は?
 真言宗の僧侶であった契沖によって、近世の国学ならびに国語学が開かれたわけですが、その国語学は古典語を学ぶためのものでありました。近世の国学が、今日もなお国学と呼ばれているのは、その学問が国語を大切にし、積極的にこれを探究して日本の国民や民族の文化を、またその存在の根拠を明らかにしようとしているからです。

 契沖は国学の「三哲」(契沖・真淵・宣長)の筆頭でもあります。和学・漢字・仏教に広く及び、文献による実証的な研究によって優れた数々の業績を残しました。特に、『和字正濫鈔(わじしょうらんしょう)』は従来の「濫(みだ)」れた仮名表記の規則を正すことを目的として、その準則を説きました。
 この版本には、「家 いへ 万葉和名等 いゑとかくへからす」(家は「いへ」と万葉集や和名抄等に記されている。「いゑ」と書いてはいけない。)という記述があります。

 楫取魚彦(かとりなひこ)の『古言梯(こげんてい)』は、かなづかいの研究書で明和元年(1764)に成立し、翌年刊行されました。「い・ゐ・ひ」「え・ゑ・へ」などの使い分けを古典の実例によって、用字辞典としてまとめたものです。平安時代の漢和辞典である『新撰字鏡(しんせんじきょう)』によって、契沖の『和字正濫鈔(わじしょうらんしょう)』の不備を補いました。歴史的仮名づかいの正書法としての地位を確立させた名著です。

 ※楫取魚彦(かとりなひこ)(1723~1782)
 江戸時代中期の国学者・歌人・画家。賀茂真淵に師事して古学を修め、仮名遣いの書「古言梯」を編集・出版した。県門の四天王の一人。下総国香取郡佐原(現在の千葉県香取市)生まれ。本姓は伊能で、同郷で遠縁の親族に測量家の伊能忠敬がいる。

★『和字正濫鈔』『古言梯』は令和2年度平常展で公開中です。(~5月23日(土)まで)