【縣居通信3月】
遠江出身の偉大な国学者 賀茂真淵 ~大変貴重な真淵自筆の短冊~
当記念館には、賀茂真淵の和歌が書かれた真淵自筆の短冊が3枚あり、平常展や特別展で公開しています。亡くなるまでに千首以上の和歌を残した真淵ですので、もう少し短冊に書かれた作品が当館に収蔵されていてもよいのではと思われます。しかし、実は真淵自筆の短冊作品が少ないのには理由があるのです。
尾澤只一氏の著書『栗田土満翁傳』(平成20年発行)には次のように書かれています。
賀茂真淵の和歌の短冊は大変貴重で、全国で真跡として分かっているものは7、8枚に過ぎないと言われています。真淵は短冊に歌を書くのを嫌ったなどと噂されています。
「武藤是哉氏の書いた文の中に、賀茂真淵の短冊は、全国に遺存するものは極めて尠(少)い。愛好同人間に知られ登録されているものは僅か十枚ばかりであるが、その中で本所の安田家珍蔵のもの三枚は、大正癸亥の大震災で鳥有に帰して了った(全く無くなってしまった)のは惜しいことである。その短冊は大抵は中曇りで、数の僅少なわけは、想うに濱松の住吉安興が言ったように、真淵は元来短冊を書くことを好まなかったそうですが、偶々(たまたま)恩人の加藤枝直の家に招かれて、一夕の余興にやむを得ず書いたものの外は絶無と言って宜しかろう。しかも枝直の短冊と同種のものが多い。それで今日伝わる短冊は加藤家から出たものが多く且つ最も信用するに足るのである。云々」
また、本居宣長記念館で公開されている資料には「
師の賀茂真淵が短冊を備忘書とし、遺さずまた人に与えなかったのとは対極を為す。参考までに、真淵の短冊は「珍短」と愛好者の間では言われ、現存する自筆は10数枚と言われている。」(本居宣長記念館 宣長ワールド「短冊」)とあります。
さらに、当記念館収蔵の『国風名家書翰(こくふうめいかしょかん)』の中にある真淵が女性門人に送った書簡「弁君 ため君 るえ君 へ」には「
懐紙か短冊かと問せらるる、もはら懐紙ぞよき。短冊はいとゝ畧(できる限りさけている)也。」とあり、短冊より懐紙を推奨していることが分かります。
これらのことから、真淵自筆の短冊作品が少なく、大変貴重である理由が分かります。ちなみに短冊ではなく懐紙に書かれて掛軸となっている真淵の作品は当館にも多数収蔵されています。
