【縣居通信8月】
五十音図が今の形になったのは?(その2)
縣居通信7月号では、安永5年(1776)本居宣長が47歳のときに刊行した
「字音仮名用格(じおんかなづかい)」で、平安時代以来の五十音図の「オ」と「ヲ」の場所を改訂したものを記し、数世紀にわたって権威をもって継承されてきた五十音図を改訂したことを述べました。これは、よほどの証拠を用意しない限りできないことであったわけです。
それでは、「字音仮名用格」(じおんかなづかい)の中で宣長はどのように説明しているのでしょうか?
「字音仮名用格」のP6~P7に「おを所属辨」という記述があります。ここで宣長は、「あいうえ」と「を」、「わゐうえ」と「お」がそれぞれ同じ行に置くには、異質な音の構造をしていることに着目して、これが誤りであることを論証します。
「オは軽くしてア行に属しヲは重くしてワ行に属す。然るを古來錯りてヲをア行に属して軽としオをワ行に属して重とす。諸説同一にして数百年來いまだ其非を暁れる人なし。…(略)
まづ古言を以ていはば息を於伎(おき)とも通はし云これオはイと同くア行の音なる故也。…(略)
居(ゐる)を乎流(をる)ともいひ多和夜女(たわやめ)を多乎夜女(たをやめ)ともいひ…。これら皆ヲはワ行なる故の通音也。…(説明はつづく)」
つまり、宣長は「音の置き換えは同じ行の音でのみ許される」というきまり(五音相通という。現在はこの考え方は行わない。)を根拠にしてオとヲの違いに気づいたのです。
「居る」という言葉は、「ヰル」とも「ヲル」とも言え、「ワナナク」は「ヲノノク」とも言えます。もっと現代的に分かりやすくいうなら、「酒」は「さけ」「さか」となります。
こうした音の置き換えは、同じ行の音にだけ互いに通用するのです。
宣長が言葉に対して、いかに鋭い直感力と想像力をもっていたかを知ることができます。
「字音仮名用格」は令和2年度平常展で公開中です。是非ご覧ください。(前期5/28~9/27・後期11/27~R3.5/23)