【縣居通信11月】~2019年は真淵翁没後250年~
真淵の著書にみられる万葉集研究の特色~和歌朗詠・朗誦のすすめ~
◆「古歌は調べを専(もっぱ)らとせり。謡(うた)うものなればなり」
賀茂真淵(かものまぶち)翁の著書には、万葉集研究書の「万葉考」を筆頭に、多くの歌論書があり、そのひとつに「にひまなび」があります。1765年(明和2年)真淵が69歳の年に、国学、歌論について記した全1巻の書で、新学とも表記されます。そして、その冒頭に上記の文が登場します。
歌は調べを第一とすると説いているのです。さらに、万葉の歌に多い『五七調』は天地の調べであると述べ、明確に万葉を尊ぶ主張を進めていきます。そして、「上古の人々は、心が真っ直ぐで、心に思うことある時は、言にあげて歌った。」「作歌の際には、万葉集を常に見なさい。それに見習って、年月詠むほどに、その調べも心も自分の心に染みこんできます。」と弟子たちに語っています。
地元の県居小学校では、子どもたちが個々に和歌づくりをするだけでなく、仲間と真淵の和歌の朗誦にも挑戦しています。また、浜松鷺長会(ろちょうかい)といった真淵の歌を朗詠する活動を進めている会もあります。こうした和歌を声に出して謡う、和歌の朗詠・朗誦という活動は、真淵の教えに
つながったものといえます。
◆万葉考冒頭の総論「万葉集大考」にみられる真淵の考え「古の世の歌は人の真心なり」
真淵の万葉集への傾注は、歌の本質は「まこと」「自然」であり、端的なところにあって、偽りや技巧のようなこまごましてわずらわしいところにはないという考えが柱にあり、その実例が万葉集や古事記・日本書紀などの歌謡にあるという見解か
ら始まります。万葉集大考には以下のような内容が盛り込まれています。
「古い世の歌というものは、古いそれぞれの世の人々の心の表現である。この歌は、古事記、日本書紀などに二百あまり、万葉集に四千あまりの数があるが、言葉は風雅であった古(いにしえ)の言葉である。心は素直で他念のない心である。」そして、古今集や源氏物語などの解釈をしてきた若いときの自分を振り返り、「これら平安京の御代は、栄えていた昔の御代にはおよばないものだとわかった今、もっぱら万葉こそこの世に生きよと願い、万葉の解釈をし、この万葉考を書き表したのだ。」と記します。そして
「古の世の歌は人の真心なり。後の世の歌は人の作為である。」とし、万葉の調べをたたえています。
※万葉集大考は、今年度の特別展、平常展を通して展示しています。